2017年6月
少し前の話ですが、年度末の小学校の先生の送別会の時に印象に残ったことがあります。会も終わり間近となり、自治会長から学校を去られる先生方への贈る言葉がありました。今までの労苦に対すると謝礼と今後の活躍を応援する言葉の最後に、「別れの歌を贈ります」と言って、朗々と歌われました。
遠き別れに 堪えかねて
この高楼(たかどの)に 登るかな
悲しむなかれ わが友よ
旅の衣(ころも)を ととのえよ
この高楼(たかどの)に 登るかな
悲しむなかれ わが友よ
旅の衣(ころも)を ととのえよ
別れといえば 昔より
この人の世の 常なるを
流るる水を 眺むれば
夢はずかしき 涙かな
君がさやけき 目のいろも
君くれないの くちびるも
君がみどりの くろかみも
またいつか見ん この別れ
私は感動してしまいました。別れゆく人への愛惜を嘆きつつも、その悲しみに耐えて受け入れざるを得ない心根が切々と感じられる歌でした。言葉の香りというのでしょうか。慈しみ深くも凛とした潔さが感じられました。帰って早速調べてみると、小林旭が「惜別の歌」として歌っており、原詩は島崎藤村であることを知りました。それで合点がいきました。原詩が島崎藤村だからです。言葉に品格があります。言葉に美しさを感じます。
そう感じるのは私だけでしょうか。もう一詩、同じく 島崎藤村 「若菜集」より。
<M.I>
「別離」
誰かとゞめん 旅人の
あすは雲間に 隠るゝを
誰か聞くらん 旅人の
あすは別れと 告げましを
清き恋とや 片し貝
われのみものを 思ふより
恋はあふれて 濁るとも
君に涙を かけましを
人の命を 春の夜の
夢といふこそ うれしけれ
夢よりもいや /\深き
われに思ひの あるものを